安保法制に反対する学者の会で考えたこと 姉崎洋一さん(北海道大学名誉教授)

クラゲのような心情

●なるほどね。で、ですね。結局そのようなことで、文化人の人もそうですし、いろんなフリーの仕事、まあ知的な仕事をやっているさまざまな分野の人がいまいろいろと声をあげてますね。

 

姉崎 うん、いろんな場面でいろんなコラボが生じている。

 

●コラボレーションが出来てきていて、これってここまで来てしまうと法案は通るかもしれませんけど、正直かなりの、まあそれでも支持率はわずかに上がってるのも不思議ですけど、ある意味で普通の、ノーマルの人たちから見て、半分これはダメだぞ、子どもっぽい人が多すぎじゃないか、ちょっと変じゃないかという風になってきて。いろんなコラボが出来てしまうとですね。これはもし自民党の参議院が野党が多数だったら倒れてますね。政権として。でも何とか両院とも与党が過半数を保っているので倒れませんけど、これもうダメだと思われたら来年の参議院までには・・・。

 

姉崎 いや、絶対行きますよ。だから個々の議員は非常に不安なんじゃないですかね。そう思いますけどね。

 

●ええ、参議院の人たちは。

 

姉崎 自民党は非常にさっきいったような特定の派閥を排除して中央からの支持を受けなければ公認候補になれないので、そこの部分が非常にセレクションがはっきりしている。そういう人たちがじゃあ地元と結びついているかといえば結びついてないので、そういう人たちが雪崩をうって落ちる可能性が。

 

●そうですよねえ。いや、確かに。そこら辺が小泉チルドレン、民主党の小沢チルドレン、全部ダメになってるわけです。そう考えると政治コストの無駄遣いが小選挙区制ではありすぎるんじゃないか。これじゃあ投票率があがらない。だって一年生候補ばかりで期待をかけて、出たら党の中央が決めたことに常に従いっぱなしというんじゃ地元もなんじゃこりゃ、という。落下傘候補ばかり出てきて、通って。

 

姉崎 そう、だから政治家を目指す人は当然ポリシーを変えない、ということね。揺らぎないものがある筈なんだけど、利権において自分の言うことを全部変えてね。リセットして(笑)喋るという。こういう人はやっぱりいままでいなかったけれど、いまはそういう人が出てきているという。おそろしいことですね。

 

●ええ。やっぱり僕も含めた日本人の問題かもしれないんですけど、信念ですよね。先生は持ってらっしゃると思いますが、やっぱり信念というものが揺らぎますね。自分の中に信条というものがあまりないのかもしれない。周りの人たちの動きを見て、その都度判断してる。

 

姉崎 まあねえ。クラゲみたいなところもあるかもしれない。ただあまりにも頑なだと宗教、カルトみたいになっちゃうけれどもね。でもやっぱり根っ子の部分が揺らがないという部分だと思いますけどね。だからそこはどんな人間でも共通してヒューマニティみたいなものが主義主張を超えて本来あるはずなんだと思うんだけど、そこであまり議論が通じないというのは、首相がそうですけど、そういうたぐいの人が中心の与党に居座っていて、普通は話が通じると思われるものが通じない。やりたいことだけをやるんだと。たとえ孤独になろうと何をいわれようとやるんだというのはあるけれど、その約束、執念みたいなものが非常に根っ子が浅く、話が通じない、出来ないという不思議なキャラクターの人が上に立っていて、信じられないと思うんだけど。ちょっと「ハイ」になっている感じがしますね。彼を見てるとね。

 

●そうですねえ。確かに。だから普通の常識世界の中に生きてると「大丈夫?」みたいな感じで「危なくない?」という感じが、僕らの中にある、ある種の権威主義のせいもあるかもしれないけど、自分たちから離れれば離れれるほどね。人としての信念を持っているんじゃないかと思われていく。勘違いとして。

 

トップダウンシステムの胎動

姉崎 だからあまりカリスマ性はないけど、あれだけ執拗にやってまわりに囲まれるとそれに抵抗できないようなシステムを作ってきてるでしょ?これが怖いというか、判断基準が理性でも真理でもなくて、ともかくそれに従わないと、自分の地位がないみたいな(きょう)(かん)だけが支配していく。これは恐ろしいなと思います。それがグラデーションして下に降りていって、企業社会、地域社会、それから学校。そのような世界にも同じような支配が及んでくる。基本的には民主主義はボトムアップで民意を上げていって作るというのが本来のあり方なんだけど、いまのガバナンス改革だと上のトップダウンですから、トップがすべてを決めて決定するという。そういうシステムをどの世界にも導入しようとしていますから。

 

●僕が怖れているのもそこなんですよ。国民主権のはずなんだけど、極めて国家主権的な思考がマスメディアも含めて出てきているような気がして、非常に怖いんですよね。僕は世の主流にもいませんし、仲間も少ないですから、やっぱり追い詰められていくんじゃないかという雰囲気がすごくするんですよ。

 

姉崎 いや、大学もこの四月からは学校教育法も変わってね。学長権限がすごく高くなってきて、従来の教授会が持っていたような権限が全部吸い上げられて学校の教授会は本当に職員会議のように諮問会議化されて、教学事項だけみたいなものに限定されて、人事権とか大学の管理運営は全部上のほうにあげられているんです。

 

●そうなんですか。何かいろいろと難しい点が、問題が増えているなあというふうに思うんですけど。ただ同時に、僕にはこれは元々反動勢力だ、という風にしか見えないんですよね。10数年来の自民党の悲願というものまでは知らなかったので。すごく反動的に思うんですよ。中にはクーデター政権とまでいう人もいますけれど、そういう反動に対するひとつの潮目はやはり衆議院の憲法審査会で憲法学者がみんな違憲だ、と言いきってしまったところから変わったと思うんですけど。これ、何度も同じことを言ってますけど、ここまでいろんな裾野が広がってしまうと、これはちょっと厄介なんじゃないですかねえ?自民党も。

 

姉崎 ええ。だから局面で、国会という場合の力学でね。強行突破を彼らは今やろうとしていていると思うんですけど、ただ、その前の60年安保、70年安保のときもそうでしたけど、虚脱感みたいなもの?運動をやっていた人も沢山いましたけど、一部の人にはそういうのがありましたけど、今回はそれは起きないだろうと。

 

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管理人:杉本 賢治

編書『ひきこもりを語る』(V2ソリューション)

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