イノチが生きるとはどういうことか 若原正巳さん(理学博士) | インタビュー・サイト ユーフォニアム

イノチが生きるとはどういうことか 若原正巳さん(理学博士)

人間は「生涯繁殖成功度」を超えた?

杉本 そろそろ最後の質問なんですけど、最近の人間なんですけど。生物はみんな自分の遺伝子を残したいって必死に頑張って生きてるわけですよね?でも、いまの少子化は私も結婚してませんし、子どもが生まれる可能性が相当程度低いんですけど(笑)、人間は本来であれば必ず自分の子どもを遺伝子として残して自分が死んでも、遺伝子は残るわけだからそうやってつないでいって、本来、人間という種を残していくはずですけれども。

 とりあえず第三世界というものは置いておいてですね。先進国ではどんどん不妊の技術が発達して子どもも産まなくなってきている。それはある種の必然性がありますよね。経済的なこととか、脳が発達してきてあんまり多産になってしまうとこれだけ人口が増えると大変だなあって先を読めるようになってしまって。という風になってしまっているわけで。ここはやっぱり人間のちょっと特異な頭脳の成果というか、どういうべきか(笑)。

 

若原 それは僕は。あの~、少子化の問題はね。

 

杉本 はい。

 

若原 難しい。そこは生物学的にはすごく難しい。

 

杉本 どうも生物学の基本から行くとずれてきているのかとも思うんですけれども?

 

若原 あの~、地球の上でどうしてもヒトが爆発的に増えるか考えれば、多くは生活のためなんだよね。子どもをたくさん作ったほうが生活しやすい。低開発国では子どもを働かせるし、だから貧しい国ほど人口爆発が大きいわけだ。で、先進国はそんな生活に困らず、あまり子ども作る必要がないから。いまは特殊に出生率が下がっていて、それは生物学的に子ども減っているというよりはひとつは環境ホルモンのせいで。

 

杉本 環境ホルモン?

 

若原 環境ホルモンでいろんな化学物質がホルモンの作用を持ってて。ほかの動物もそうなんだけれども、地球全体が女性化しているということです。石油・プラスチック製品が世の中にある物質や女性ホルモンの作用にすごく似た作用を持っている物質に変わって、それがどんどんどんどん広がっていっている。アメリカのフロリダあたりのワニがどんどんどんメス化している。ヨーロッパでも100年前に比べて男の精子の数が減っている。以前は一回の射精で2億匹というのが平均だったんだけれども、それが1億とか。あんまりはっきりしないんだけれども、精子の数が減ってるというのは事実らしい。

 

杉本 半分近くに減っているということですか?

 

若原 うん。調査によれば。

 

杉本 へえ~。

 

若原 どうも日本もだんだん減ってるらしいんだけれども。それの原因がやっぱり環境上にあるいろんな化学物質が悪さをしてるんだって。それがひとつ人口減少の原因かもしれないんだ。だけど日本人の人口減少の一番の理由は精子が減ってるからというのではなくて、子どもを育てられないからだろう。

 

杉本 そうですね。確かにそれはそうだろうと思います。

 

少子化は社会的原因から

若原 それは社会的に作られたもので。人口減少とか、少子化については生物学的な説明はつかないね。いろいろ人口が増えすぎるから子ども作らないでいるという人はいないと思う。

 

杉本 あ、そうですかあ。

 

若原 僕はそう思う。子どもは欲しいんだけれども、作れないとかさ。いや確かにもう子どもは欲しくないと。自分は遊んでいたいんだ、という人は勿論いるよね。

 

杉本 ええ。

 

若原 結婚もしなくなってるし、それはいろんな理由があるんだろうけれども、生物学的に飽和してるから結婚しない。飽和してるからひとりでいる、飽和してるから子ども産まないということではないと思う。

 

杉本 人間がそこまで知性が発達しても(笑)。そこまでは抽象的には考えないということですか(笑)。

 

若原 うん。日本の出生率が減っているのは社会的な原因しかないということじゃないかな。

 あの~、昨日か今日の新聞だっけ。あと何年かたったらインドが15億になるのかな。そして中国を抜くと。日本は7000万くらいで人口の数で行くと30番目くらいになると書いてあったけど。そういう人口予測はあるんだけれども、日本の適正人口はいくらかというのは難しい。いま一億一千万なんだろうけども、一億一千万人でいいのか、七千万人に落ちるのがいいのかは良く分からない。

 

杉本 そうですか。何かわたくし的にはというか、人口学の先生が日本人は七千万くらいがこの国土に住める地域からいくと適正ではないかと。だから明治くらいの。いや、そんなに近くではないか。でも七千万はちょっと減りすぎですかね?

 

若原 それは本当にいいかどうかよく分からないけどね。

 

杉本 ですから戦争の頃に目指せ一億、みたいな。それは戦争に借り出す若いやつらが欲しくてそういう風になったわけですよね?で、実際に増えちゃったのは戦争に行っていた復員兵の人たちが戻ってきて人口が爆発的に増えたということでしょうから。それからやっぱり産業構造のこともありますよね。大量生産の時代は人が沢山いればそれだけいいものを作る、ベルトコンベア的な仕事で。人も必要だということもあったのかもしれないですが、やっぱり必然性としては仕事もなくなってきているこの時代においては、人が過剰に多い、っていうことはあまり。だから僕もわからなくって。ある種の環境適応の結果なのかなあ?みたいに思うことがあって、お聞きしたんですよね

 

若原 それが環境適応の結果だとすればさ。

 

杉本 はい。

 

若原 アジア・アフリカで人口爆発してるんだけど、そこに環境適応が適用されずに、先進国だけに適用されるというのは説明がつかないね。問題は人口をどうやって維持して折り合って地球環境と折り合いをつけていくかという所に尽きると思うんだけれども。

 

杉本 ええ。

 

若原 地球人口が例えば100億になった、200億になったとしてもそれを賄うだけの資源があればいいわけだ。いまの技術というか、アメリカ、日本、ヨーロッパの消費をならせば。

 

杉本 ほかの地域に?

 

若原 うん。ならせば十分やっていけるんじゃないかと思う。

 

杉本 なるほどねえ。

 

若原 うん。十分可能だと思う。

 

杉本 じゃあ我々は少し粗食に甘んじて。結局そういう配分の問題なんですよね。どうやって適正に。

 

若原 それと、僕は「南北問題」だと思ってるけど。

 

杉本 はい、はい、はい。

 

若原 でも将来的にはわからない。75億、100億、200億人まで行けるかもしれないけれども、そのうち。だって化石燃料はあと50年で枯渇するわけだし、食糧生産だってどうなるかわかんないわけだし、そういう風になればね。地球環境を維持できるのか?という話になって、そこは大変難しいよね。

 

杉本 ええ、ええ。まあ何となくの、これは感覚なんですけれども、先進国化していくというか、やっぱり教育とか高等教育的になっていくとやっぱり多産でなくなっていくのかなあ?これはやはり不妊技術とか、避妊という形であるわけですから。それを上手く活用すれば人々の多い地域でもだんだんと...。

 

若原 その避妊とか、技術的なことは勿論やれば変わるけれども。無知で、避妊することができなくて増えているんではなく、子ども作ろうとして増えてるんだから。

 

杉本 あ、そうですか。意志が働いているわけですね?それは。

 

若原 だと思う。だから貧しさからなんだ。

 

杉本 子どもが必要だ、っていうことですね。

 

若原 自分が生きていくために、子どもがいたほうが生きていきやすいんだから。

 

杉本 ああ、そうか、そうか。労働力として。

 

若原 だからコンドーム配ったりして教育すれば少しは抑えられるかもしれないけれども、大元はそこではない。コンドーム配ることが人口爆発を抑えることではない。豊かにすることが人口爆発を抑えることが出来る。僕はそう思う。

 

杉本 確かに先進国はね。どんどん少子化進んでますもんね。

 

若原 うん。だからそれは豊かなんだからだと思う。

 

杉本 うん。豊かだからですね。

 

若原 食糧に困っているから子どもがいればなんだかんだ畑やらせたりして作らせ、牛の世話をさせる。だからそこの所に手当てをすれば、人口爆発は抑えられる。そこを押さえないとコンドーム配るだけじゃダメだと思ってるね、僕は。

 

杉本 そうか。環境要因なんですね、結局は。何か人間が意識的に人口調節を始めたわけではなくって。

 

若原 人口はね。わかんないな。僕はね、あまり今回そこの所に触れてないから。

 

杉本 でも目次を拝見するとミーム(文化遺伝子)とジーン(DNA遺伝子)とありますよね。これ、ミームというのは結局、人間特有の遺伝ですよね。

 

若原 そうだね。

 

杉本 これ、DNA遺伝子というのはまさに生き物として遺伝子を残すっていう。ずっとお話として伺ってきた生物として生きてるということの、「お仕事」の最大の要因がそれになるんでしょうけど。文化遺伝子がどういう働きをしているのか。まあ、私もこれ、どうなのかわかんないです。DNA遺伝子に関しては。自分にももちろんあると思いますけど、いろいろと性的には年齢的ものとか。

 

若原 年齢的にはあまり男の場合には。

 

杉本 男の場合にはあまり関係ないけど、つまり性的選択でいくと敗者の側に自分も近いところにいるので(笑)。なかなか配偶者にめぐり合えないんですけど。つまりですね。DNA遺伝子を伝えられないというところに人間が行ったときミームのほうに行くのかなあ?とか。

 

若原 いや、それはそうなんじゃない?

 

杉本 (笑)あは、やっぱり(笑)。

 

若原 子ども、結婚しない人、増えてるでしょ。

 

杉本 そうです。周りにも多いんですよ。

 

若原 結婚できない人もいて。あの~、市民講座に使っていたデータはもう古いんだけども、普通に結婚して子どもできない夫婦というのは一割はいたんだから。

 

杉本 ああ、そんなにいるんですか。

 

若原 いまはもっと増えてると思うけど。

 

杉本 おそらくそうでしょうね。

 

若原 不妊の組み合わせはいるです。組み合わせの関係で両方とも調べたらそんな異常でもない。だけども子どもできないという組み合わせはいるんだ。でも、子どもがなくたってさ。人間としてありうることでいいんだ。いや、僕もね。僕は再婚して連れ合いっ子がいるもんだから。子どももいるし、孫もいるんだけど、自分の子どもはいないの。

 

杉本 あ、そうなですか。

 

若原 うん。前の、最初の人と結婚した時に子どもが出来なかったから。

 

杉本 なるほど。

 

若原 子どもできなかったけれど、幸いなことに子どもがいて、孫もいる。それでいえば幸せといえば幸せだ。でもやっぱり自分の遺伝子が残らないから。

 

杉本 ええ。

 

若原 何か残したいなあという気はある。

 

杉本 う~ん (深く頷く)。

 

若原 それはどうしてもあるの。

 

杉本 なんかねえ。そういうことはどうやらあると思うんですよね。

 

若原 だから僕が本を書くというのもそういうことに関係してる。ウチのカミさんは、そんな退職したんだからもう、とかいうんだけども、だけど本が書くのが好きだというのもあって、本を書くんだけどもそれはやっぱり自分が生きた証を本当は子どもに残せばいいんだけれども、子どもできなかったからね。だから本の形で残すということがあるのかもしれない。

 

杉本 そうですね。ですから私も、「生物としての自分」という風に考えたことはあまりいままでなかった。ですからやはり「自己表現」とかね。もう仕事もねえ無いですし。いままで社会的な貢献もあまりしてこなかったから。せめてこういった形は経済的な価値はないけれど、何かせざるを得ないという気持ち。これは人間という存在はやっぱりそのように自己表現しないとやってられないからだと思っていたのだけれど。

 

若原 いや、それは自己表現は必要でしょう。

 

杉本 それはでも、詰めて考えていくと何か生物的な要因が働いているのかなあ?だから私が普通にサラリーマンをやれて、結婚して子どもが生まれたら別に変に考えたりもせず(笑)普通にサラリーマンをやって、子どもの成長のために一生懸命金稼いで。おそらくね。これくらいの年齢になったら奥さんにも相手にされないで、何かこう、哀しい中年男になっていて。まあしゃあねえか(笑)、みたいになっていたのかも。

 

若原 いや、それは別に子どものあるなし、結婚するしないに関わらず、濃淡はあるかもしれないけれども、何か自己表現をしたいという欲求や欲望、気持ちあることで。

 

杉本 まあまあ、そう。そうですね。

 

若原 うん。だからこうやってインタビューして、あの~、ネットで掲載して本に出すというのは子どもあってなくて関係なく、いいんじゃない?それは。

 

杉本 遺伝子の話まで広げたのは広げすぎちゃったかな(笑)。まあでも、そうですね。基本的にはいろんな人がいて、攻撃手な人もいて、争いごとをやりやすい人間存在もありますので、何か別の切り口を伝えたい、というのはありますけどね。今回もそういったあたりのお話を伺えてありがたかったなと思います。大変興味深いお話、本当にありがとうございました。

 

(7月30日 札幌学院大学社会連携センターにて)

 

 

 

若原正巳(わかはら まさみ)

北海道大学理学部卒、同大学院理学研究科博士課程終了

理学博士。

1970年から北海道大学理学部および同大学院理学研究科で研究・教育に従事し、2007年北海道大学を退任。

主書:

『黒人はなぜ足が速いのか』 (新潮選書)

『シネマで生物学』 (インターナショナル・ラグジュアリー・メディア)

『なぜ男は女より早く死ぬのか』 (SB新書)

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管理人:杉本 賢治

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