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2015.12.20
発生生物学の若原正己さんのインタビュー掲載しました
実際お話を伺ったのは7月下旬で年末まで原稿をあげるのに時間がかかり、先生には大変ご迷惑をかけましたが、どうにか年内に若原正巳先生のインタビューを掲載することができました。
生きものの生きる戦略や人間の特質、日本人の原型的な資質についてなど多岐にわたる話。かなりなロングインタビュー、いや実際の所、正確にいえば個人授業なのでしたが、ぜひ少しでも読んでくれる人がいてくれると嬉しいなと思います。
もしかしたら前半、中盤の生物発生の仕組みや、生きものたちの生存戦略についてはすでに知ってるよ、という人も多いのかもしれません。ですが私は具体的に専門の方からこの手合いの話を聞いたのは全く初めてで、とても知的好奇心が刺激され、インタビューで落とせる部分がありませんでした。
「生涯生殖繁殖度」という言葉が示すとおり、動物たちは端的に言えば自分の子どもたちを少しでも多く残す、もっと露骨に言えば自分の遺伝子を残すことが生存の最大目的としてこの世界にいるということ。そして、なぜか人間はそのことを主目的にしているようにはとても思えないこと。何というか、全てが不思議なことばかりではないですか!!と私は思うばかりでしたね。こちら側からすればせっかく生まれてきて目的が自分の遺伝子を残すことだけとは。そのためには性転換さえ当たり前の魚がいるとは。と直感的には思うばかりですが、それはこちらの角度で、生きものの世界では人間の持つ考え方のほうが不思議なことでしょう。まあ、とはいえ人間の社会も生存戦略として子孫を残すのが原点な訳ですが、それはだいぶ後景に退いた意識になっているといっていいでしょう。だからこそミーム(文化的遺伝子)ということが語られるのでしょうか。
人間は自然から逸脱したでしょうか?果たして僕は自然から逸脱してしまったのでしょうか。そういう角度で考えるのも面白いことです。旧口動物の王様である昆虫、脊椎動物の両生類、爬虫類、哺乳類。類型化は出来るのですが、子どもの育てる機能はけして一様ではない個性もあるようです。胎盤がないのに子どもをお腹で育てる魚類のサメ、哺乳類なのに胎盤があまりに脆弱なので未熟児で生まれた子どもを袋に入れて袋の中に入れて母乳で育てるカンガルー、魚でも体外受精かもしれないが、口の中に卵を入れて卵を守る魚もいると。
類の個性は標準化できてもその中でも個性的な種がいる。そう考えればホモ属サピエンス種のわれわれ人間も、その中で多様な個性があるし、生存戦略のためにこれからも個性を伸ばして生存戦略のための進化をしていく、変化をしていくのかもしれません。南伸坊×岡田節人さんの「生物学個人授業」のなかに岡田さんが興味深い一文を載せておりますので、ここで少し紹介します。
「生きものの科学とは、普遍と多様のはざまで仕事をしているのです。(中略)生きものの科学は、多様性の調査と、多様性への賛美から始まっています。やがて普遍の側面は大きく姿を現し、遺伝子の正体と働きが明らかにされることによって、一大クライマックスに達します。といってもトリの翼とサカナの胸ビレの違いが生物学の根本の現実であることは、あまりにも自明です。同じであること(普遍)を知ったら、多様も理解できるのでしょうか?普遍と多様のはざまに、二十一世紀の生きものの科学が新しく始まろうとしているのです」
今回の(インタビューというよりは)講義のために、幾つか極めて優しい本で予習していきました。以下、参考程度に。もし、この種の話がいままでなじみなく、これを機会に関心が生まれたという人に僕が参考にした本をあげておきます。おそらく図書館で簡単に入手できるはずです。
●「爆笑問題のニッポンの教養① 生命のかたちお見せします 発生生物学・浅島誠」 (講談社)
●「生物学個人授業 岡田節人」 生徒:南伸坊 (河出文庫)
以上二冊が生物の発生の勉強に使いました。特に南伸防さんは改めて思ったけれど、ものすごく文章がうまい。やさしく、わかりやすくを標榜する参考書のような文体。かつ、そこに「わかりやすさ」へのこびへつらいがありません。凄い人だと思います。ほかにも南さんの個人授業シリーズがあるのですが、残念ながら爆笑問題のテレビシリーズのようにはいかず、岡田先生以外、ほかに2冊くらいしかないはず。そのもうひとりは河合隼雄さん。ほかは確か養老たけしさん?くらいだったかな?確か。
で、後半の人間の特性については以下の本を参考に読んでいきました。
●「人間はどこから来たのか、どこへ行くのか」 (NHK取材班)高間大介 (角川文庫)
あとはNHKスペシャルの番組「ヒューマン」のDVDを図書館でレンタルで二本ほど見ました。今回は予備知識が必要だと思いましたので、少し資料は多め。でも、知的好奇心を刺激される読みやすい資料たちたちです。
もちろん、若原先生の本も。映画ファンは「シネマで生物学」などの本もおすすめです。ただ、私も先生が準備されている本の目次を見せていただきましたが、来年発刊予定の若原先生の新著は大いに楽しみにしてよいものと思います。